0. What is Portolan — Portolan・AI可読空間データの基礎
Portolan が何のために生まれたのか。STAC から続く文脈と 3 つの「入り口」の設計思想を学びます。
このチュートリアルシリーズでは、AI が直接読める空間インフラ「Portolan」を、実際に作って・公開するところまで学びます。
Portolan が生まれた背景
地理空間データはこれまでポータルサイトや専用 API、FTP サーバーで配布されてきました。利用者は毎回ダウンロードと前処理を行い、AI エージェントにとっては大きな障壁でした。
問題は「データが見つかること」と「データが使えること」の間に大きなギャップがあることです。検索はできても、次のような手順をこなす必要がありました。
- ポータルから ZIP をダウンロード
- 独自形式を GeoJSON / Shapefile に変換
- 座標系(EPSG)を合わせる
- ライセンス条件を人間が読んで解釈
- API 仕様の違いをコードに吸収
これらの手順は人間にとっては面倒で、AI エージェントにとっては事実上の障壁でした。
ポイント: Portolan は新しいファイル形式ではありません。STAC・GeoParquet・COG・PMTiles といった既存標準を組み合わせたベストプラクティス集です。
何が変わるのか
Portolan の考え方は「データをどこかに集約する」ではなく、データは出版者のストレージに置いたまま、開いた状態で公開するというものです。AI エージェントは必要な部分だけを直接参照しにいきます。
| 従来 | Portolan |
|---|---|
| ダウンロード → 前処理 | 直接参照(ストリーム) |
| 出版者がサーバー運用 | オブジェクトストレージに配置するだけ |
| 形式・座標系がバラバラ | 標準を組み合わせて統一 |
| ライセンスが読めない | AGENTS.md で機械可読に |
3 つの「入り口」
Portolan の特徴は、ひとつのデータコレクションに 3 種類のドキュメントを用意することです。
| ドキュメント | 誰が読むのか | 役割 |
|---|---|---|
| collection.json | ソフトウェア | メタデータ・スキーマ・データへのリンク |
| README.md | 人間 | データの意味・ライセンス・利用上の注意 |
| AGENTS.md | AI エージェント | クエリパターン・座標系・既知の制限 |
特に AGENTS.md は革新的です。「このカラムで空間フィルタをかけると速い」「EPSG:4326 に変換してから使う」といった、GIS 専門家の知見をエージェントが事前に読める形で渡します。エージェントは失敗してから試行錯誤するのではなく、最初から正しい手順で動けるようになります。
データ主権が「設計要件」になる
従来は、AI で地理空間データを使う場合、データを特定のクラウドプラットフォームに集約することが多かった。しかし政府機関にとって「データがどこに行くか分からない」状態は受け入れがたい。
Portolan ではデータは出版者のストレージに留まり、AI エージェントが必要な部分だけを読みに行きます。さらに、ストレージ・エンジン・AI モデル・メタデータ標準の各レイヤーが独立して選択できるため、特定ベンダーに依存しないインフラを実現します。
レジストリの仕組み
データの「見つけやすさ」はレジストリが担います。レジストリには Overture Maps Foundation、各国土地理院、各市など 20 のカタログが登録済みです。
レジストリ(一元の索引)→ 各カタログの collection.json を横断検索
↓
出版者のストレージ上の実データ
データそのものは動かず、索引だけがレジストリにあるという点が、従来のデータポータルとは異なります。
「ポルトラン図」という名前の由来
ポルトラン図(Portolan chart)は、13〜17 世紀に地中海・黒海を中心に使われた航海図です。羅針盤から放射状に伸びる方位線が特徴的で、それ以前の「鑑賞用」の地図に対し、船乗りの実測知識に基づく「正確で使えるか」を優先した実用主義の産物でした。
オープン仕様としての Portolan も、この精神を受け継いでいます。理想を掲げるだけでなく、実際に動く仕様を定め、「どのツールを使っていても読める」ことを目指しています。
用語集
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| collection.json | コレクションの目次(メタデータ・リンク) |
| AGENTS.md | AI エージェント向けの取扱説明書 |
| レジストリ | カタログの一元索引 |
| STAC | 時空間アセットのカタログ規格 |
| GeoParquet | 地理情報を Parquet で表現する形式 |
| PMTiles | 1 ファイルのタイルアーカイブ形式 |
このシリーズの流れ
- Portolan の基礎(本ページ)
- 最初のコレクションを作る
- AGENTS.md を書く
- GitHub Pages で公開する
- Google Colaboratory と連携する
- ローカル LLM でデータ解析する
次のステップ: 最初のコレクションを作る