0. What is Portolan — Portolan・AI可読空間データの基礎

Portolan が何のために生まれたのか。STAC から続く文脈と 3 つの「入り口」の設計思想を学びます。

このチュートリアルシリーズでは、AI が直接読める空間インフラ「Portolan」を、実際に作って・公開するところまで学びます。

Portolan が生まれた背景

地理空間データはこれまでポータルサイトや専用 API、FTP サーバーで配布されてきました。利用者は毎回ダウンロードと前処理を行い、AI エージェントにとっては大きな障壁でした。

問題は「データが見つかること」と「データが使えること」の間に大きなギャップがあることです。検索はできても、次のような手順をこなす必要がありました。

  1. ポータルから ZIP をダウンロード
  2. 独自形式を GeoJSON / Shapefile に変換
  3. 座標系(EPSG)を合わせる
  4. ライセンス条件を人間が読んで解釈
  5. API 仕様の違いをコードに吸収

これらの手順は人間にとっては面倒で、AI エージェントにとっては事実上の障壁でした。

ポイント: Portolan は新しいファイル形式ではありません。STAC・GeoParquet・COG・PMTiles といった既存標準を組み合わせたベストプラクティス集です。

何が変わるのか

Portolan の考え方は「データをどこかに集約する」ではなく、データは出版者のストレージに置いたまま、開いた状態で公開するというものです。AI エージェントは必要な部分だけを直接参照しにいきます。

従来 Portolan
ダウンロード → 前処理 直接参照(ストリーム)
出版者がサーバー運用 オブジェクトストレージに配置するだけ
形式・座標系がバラバラ 標準を組み合わせて統一
ライセンスが読めない AGENTS.md で機械可読に

3 つの「入り口」

Portolan の特徴は、ひとつのデータコレクションに 3 種類のドキュメントを用意することです。

ドキュメント 誰が読むのか 役割
collection.json ソフトウェア メタデータ・スキーマ・データへのリンク
README.md 人間 データの意味・ライセンス・利用上の注意
AGENTS.md AI エージェント クエリパターン・座標系・既知の制限

特に AGENTS.md は革新的です。「このカラムで空間フィルタをかけると速い」「EPSG:4326 に変換してから使う」といった、GIS 専門家の知見をエージェントが事前に読める形で渡します。エージェントは失敗してから試行錯誤するのではなく、最初から正しい手順で動けるようになります。

データ主権が「設計要件」になる

従来は、AI で地理空間データを使う場合、データを特定のクラウドプラットフォームに集約することが多かった。しかし政府機関にとって「データがどこに行くか分からない」状態は受け入れがたい。

Portolan ではデータは出版者のストレージに留まり、AI エージェントが必要な部分だけを読みに行きます。さらに、ストレージ・エンジン・AI モデル・メタデータ標準の各レイヤーが独立して選択できるため、特定ベンダーに依存しないインフラを実現します。

レジストリの仕組み

データの「見つけやすさ」はレジストリが担います。レジストリには Overture Maps Foundation、各国土地理院、各市など 20 のカタログが登録済みです。

レジストリ(一元の索引)→ 各カタログの collection.json を横断検索

                    出版者のストレージ上の実データ

データそのものは動かず、索引だけがレジストリにあるという点が、従来のデータポータルとは異なります。

「ポルトラン図」という名前の由来

ポルトラン図(Portolan chart)は、13〜17 世紀に地中海・黒海を中心に使われた航海図です。羅針盤から放射状に伸びる方位線が特徴的で、それ以前の「鑑賞用」の地図に対し、船乗りの実測知識に基づく「正確で使えるか」を優先した実用主義の産物でした。

オープン仕様としての Portolan も、この精神を受け継いでいます。理想を掲げるだけでなく、実際に動く仕様を定め、「どのツールを使っていても読める」ことを目指しています。

用語集

用語 意味
collection.json コレクションの目次(メタデータ・リンク)
AGENTS.md AI エージェント向けの取扱説明書
レジストリ カタログの一元索引
STAC 時空間アセットのカタログ規格
GeoParquet 地理情報を Parquet で表現する形式
PMTiles 1 ファイルのタイルアーカイブ形式

このシリーズの流れ

  1. Portolan の基礎(本ページ)
  2. 最初のコレクションを作る
  3. AGENTS.md を書く
  4. GitHub Pages で公開する
  5. Google Colaboratory と連携する
  6. ローカル LLM でデータ解析する

次のステップ: 最初のコレクションを作る